NAIANI8月号コラム 相続人ではないのに相続人になれる「相続分の譲渡」
今月は「相続分の譲渡」について説明します。
相続人は、相続財産の遺産分割協議をする前に、自分の相続分を他の相続人または第三者に譲渡することができます。例えば、自分の父親が亡くなって、相続人が母と弟と自分(以下「甲さん」といいます。)であれば、甲さんの法定相続持分は4分の1ですから、その4分の1を譲渡できるということになります。
ただし、他の相続人と遺産分割協議をした後には相続分の譲渡をすることはできません。遺産分割協議をすると、相続が開始した時にさかのぼって、その効力を発生することから、遺産分割協議がされた後には、相続分という考え方はそぐわないからです。
なぜ相続分の譲渡を認めるかというと、相続人がたくさんいる等により、遺産分割協議が成立するまでに時間を要する場合には、共同相続人の一部の者が自己の相続分を処分したいと考えることがあり得るからです。上記事案ですと、遺産分割協議が長期化、しかし、甲さんはお金が必要であった場合、甲さんは自分の相続持分(4分の1)を処分(だれかに売る等)して、現金化できるわけです。約束手形を支払期日前に現金化する手続きと似ているでしょうか?
なお、民法という法律で規定する「相続分の譲渡」の場合の「相続分」とは、包括的相続分(プラスの財産とマイナスの財産を含む)を指し、個別の相続財産(例えば、居宅等)の相続分ではありません。ですから、相続分の譲渡を行いますと、譲り渡した人は相続人の地位を失い、譲り受けた人は相続人の地位を取得します。また、上記に記載したとおり、譲り受けた人は債務(マイナスの財産)を承継しますので注意が必要です。
当事務所で行った「相続分の譲渡」の事例を紹介します。
AさんはBさんと戸籍上は婚姻関係にありませんでしたが、30年来、一緒に暮らしており(いわゆる「事実婚」でした)、また、Bさんが入院してからは献身的に身の回りの世話をしてきました。そのBさんが死亡しました。Bさんは子どもがおらず、戸籍上の配偶者もおらず、両親も死亡していたため、その相続人は、Bさんと離れて暮らす弟のCさんのみでした。Aさんから、「Bの遺産は預金が数十万円あるだけだが、何とかならないか」と相談がありました。
遺産は少額であるため、CさんからAさんに対し、相続分の譲渡をしてもらえないかと考え、Aさんを通じ、Cさんに連絡したところ、CさんはAさんに対し、相続分の譲渡をしてくれました。その譲渡証明書(Cさんの印鑑証明書付き)とBさんの戸籍等を銀行に持参したところ、預金の解約ができました。Bさんには非常にお喜びいただきました。
ここで注意しなければいけないのは、「相続分の譲渡」は贈与に当たるということです。上記事例では、譲渡額が少額であったため、贈与税の問題とはなりませんでしたが、実際に相続分の譲渡をする譲渡人と譲受人は、税金面を注意する必要がありますので、税理士さん等に相談され、税金問題を解決した上で、「相続分の譲渡」制度を利用していただきたいと思います。
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