NAINAI9月号コラム 遺留分(いりゅうぶん)

司法書士による法律のあれこれ

遺留分(いりゅうぶん)

 

遺産は基本的には相続人全員が同意すれば、どのような遺産分けをしても構いません。例えば、亡くなった方の相続人が子どもであるAとBの2人であった場合、AとBが話し合い、合意した上で、Aが遺産の全部を取得し、Bは何も取得しないことであれば、問題はありません。

しかし、亡くなった方が「Aに遺産を全部取得させる」という遺言書を作成していた場合、Bがその内容に不満を持ったら、「遺留分」とい権利を行使できます。「遺留分」とは、「残された家族の生活を保障するために、最低限の金額は必ず相続できます」という権利です。

上記事例ですと、亡くなった方の相続人はその子どもであるAとBですので、その法定相続持分は2分の1ずつです。遺留分はその半分になりますので、Bの遺留分は遺産の4分の1になりますので、遺留分を行使すれば、遺産の4分の1は相続できることになります。

遺留分の行使方法ですが、BがAに対して、「オレには遺留分があるので、それを行使する」と伝えて、Aが話し合いに応じてくれれば、話し合いで解決できますが、Aが話し合いに応じない場合、家庭裁判所に対して、遺留分侵害請求を行うことになります。

遺留分は「最低限の金額は相続できます」という権利ですので、Bが「そんな遺言書があるのであれば、オレは遺産はいらない」と言えば、それまでです。権利を行使するかしないかはB次第ということになります。

また、遺留分という制度があるのは、原則として、相続人の中でも、亡くなった方の配偶者、子ども及びその親です。亡くなった方の兄弟姉妹には遺留分という制度がありません。ですから、例えば、Cは「自分には配偶者と子どもはいない。親も死亡していない。兄弟はいる」という場合、Cがお世話になったDに全財産を渡すという遺言を残せば、Cの兄弟は遺留分がありませんから、遺言書のとおり、Cの財産は全部Dが取得できます。

一方、子どもがいるEの場合、「全財産を知り合いのFにあげる」という遺言をすると、Eの子どもが遺留分を行使した場合、FはEの全財産を取得することはできません。

ですから、「遺言書があれば、それに書いたとおりになる」という考え方は間違いです。遺言書を作ったとしても、遺留分を侵害する内容になっていれば、遺言者が亡くなった後、その遺言書が原因で紛争になることが考えられます。

当事務所に遺言書を作成したいと相談に来られた方、甲さんがいます。甲さんには配偶者はおらず、子どもが1人いますが、ご病気で入院中であり、成年後見人が付いているとのこと。甲さんは評価額が約600万円の不動産をお持ちで、預貯金が約500万円あり、不動産は自分の兄弟に渡す、預貯金はこどもが入院している病院に寄付するという遺言をしたいと言われました。甲さんが死亡した場合、子どもの成年後見人は必ず遺留分を行使しますから、そのような遺言をするのであれば、不動産をあげる兄弟と預貯金をあげる病院に事前に相談したほうがよいと伝えました。

遺言は遺言者が死亡した後、遺産をもらう方の立場も考えてしなければならないという一例です。

投稿者プロフィール

川口邦則
川口邦則
熊本県八代郡市、宇城市を中心に、相続の手続きや不動産登記、会社設立、遺言書の作成サポートをはじめ、借金問題などの債務整理、近年需要が益々増えてきている成年後見などをサポートしております。 困ったことがあれば、まずはお気軽にご相談ください。

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